シュレディンガーの嘘 -エロスを纏う猫に酔いしれる夜-

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シュレディンガーの嘘

小倉FUSE

2018年12月29日

 

昨日から漸く冬らしい寒さが到来し、雪がちらつく小倉に、1年とちょっとぶりにやって来たバンド、「シュレディンガーの嘘」のライブに初参加してきた。

ライブは5バンド対バン形式で来年解散するバンドがトリで、「シュレディンガーの嘘」はその前の実質的なトリとして参加していた。(実際にアンコールをやったのはシュレディンガーの嘘だけだった。)始まった途端に空気が変わり、盛り上がりを観せた。「百聞は一見にしかず。」正にそれはこのバンドにこそ冠として付けておきたい。そんな魅惑的なバンドが、この「シュレディンガーの嘘」と言うわけだ。

そもそものバンド名からしてミステリアスだ。一体どうして「シュレーディンガーの猫」ならぬ「シュレディンガーの嘘」なんて名前なのか。そしてファーストアルバムにそれとはかけ離れた枕詞が踊っていた。そう、「風俗系ロックンロールバンド」を標榜する鹿児島県の番犬三匹と卑猥なショーガールからなるバンド、それが「シュレディンガーの嘘」なのだそう・・。クールで弾け切った軽快なロカビリーからは想像を絶するほどのエロスを纏うぶっ飛びのパフォーマンスが目の前で展開される。ここは本当にFUSEなのだろうか?小倉A級劇場の間違いではなく?そんな衝撃のステージに体が疼く。音楽、パフォーマンス共に一流、なんと言う個性、なんと言うポテンシャル、しかしそれに見合わない動員。聞けば一年近くの休止期間があったとのことだが・・。こんなに凄いバンドが燻っているなんてことあるわけがないじゃないか。今日見に来た僕らは突然の感動に打ちひしがれている。今まで味わったことのない音楽性、これは皆んなに知らせないといけない。僕らだけで楽しむ、そんなバンドじゃないよ。そう強く思わせたバンドだった。

 

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そうだなぁ、例えるなら椎名林檎の「歌舞伎座の女王」の初期衝動に近い。「卑猥な歌詞」と「コスプレ」と「美しさ」。あの衝撃をより熱く、激しくしたのがKANARIA嬢の佇まいと感じた。だから後続のEGO-WRAPPIN、サンタラ、キノコホテル等に正にど真ん中でヒットするのだけれど、どうやらこのバンドのリアリティは、そんなところからは、もう完全に飛び抜けてしまっている。それほどの個性と九州らしいブルースをがっつりと聴かせてくれる。なんと言ってもここは北九州。ギターがザ・ルースターズ花田裕之を彷彿させる。Yo-heiのグレッチがダイナミックかつクリアな響きをもった音に昇華して、軽く30~50年の時空を超える。ゼップからジャニスまで、古き良き時代のサウンドがそこに生々しく詰め込まれていた。これぞ平成の最後を飾るにふさわしいサウンドではないか。そう、そしてそこに絡みつくKANARIA嬢のハスキーヴォイスはまるで'68年、ビッグブラザーを従えたジャニス・ジョップリンの様に、一度その声を発してしまえば、彼女のいる会場を完全に制圧してしまう程の、唯一無二な歌声で、レインボーの様なバンドの突き抜けたインプロビゼーションにも一切負けることはない主張の強い歌声だ。「永遠に時が止まって仕舞えば良いのに!」初参加だからだろうか?そう、興奮の中、ずっと思っていた。きっとここにいる皆んなの気持ちは一緒だったに違いない。

 

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小倉FUSEの真っ白な緞帳の裏からまるで70年代なサウンドが聴こえてくる。そうだな、レッド・ツェッペリンの「ハートブレーカー」でも始まりそうな音合わせが聞こえてくる。

今回、事前情報はほとんど入れていない。MVは見たけれどあまり情報は入って来なかった。BAR SDRで音源を聞いた時も気になったのは音ではなく、それを紹介してくれた人たちの熱さだった。これは一度ライブを観る必要がありそうだと強く感じた。そのライブがこれから始まるのだ。

 

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Shimoのベースが先頭を切って鳴り響く。ソリッドな音が全ての音を牽引する。僕らはどうしたってはじめはベースの音を探すのだ、ベースがしっかりしてこそのバンドサウンドなのだ。その安定した図太い軸芯の周りを激しくギターが暴れても問題ではない、要のベースはぶれることなくYo-heiのギターを支えている。両足を開いてギターを立てて引き倒すYo-heiのギターソロが進行を見失わない、そんなベースサウンドがここにある。

 

小倉の1曲目はファーストアルバム、セカンドアルバムの両方に収録されている「R.B.C.」からはじまった。R.B.C..は「Red Bitter Chocolate」の略でありファーストは「血の滴るリストカット」や「精神的抑圧で追い込まれる様」を形容する曲だったが、セカンドはその主題を大分抽象化したようだ。しかしそれでもこの曲はシュレディンガーの良さがぎっしりと詰まっていて、名刺がわりの一曲とも言えるのではないか。

 

続く2曲が三枚のCDには未録の曲であった。新曲なのだろうか?今回初参加の僕にはそんなことが分かるはずもないが、聴いた印象は特に3曲目がジャニスっぽいハイトーンシャウトで問答無用でハートを鷲掴みにされた!

MCを挟んで「ノーマジーン」だ。MVで洒落たAORで魅せた音も、ライブではファンキーなYo-heiのギターでその味を深めている。やはりこのバンドの真に迫る迫力はフィルムでは表現しきれない。全身で感じる音の波動。フィルムで一体化することでお互いの波を打ち消しあうかのような不可思議な波動特性が現れる。そんな音もライブ会場と言う音場では異常値をしめす。あたかも一つ一つの波がそれぞれの意思(波長)で暴れていて、理論では起こり得ない音として耳に届く。生き生きと波打つ波動は理論物理学パラドックスの形容としての「シュレディンガーの猫」さながら・・。その猫が放射線からも、青酸ガスからも逃れて、生き生きと動き回って僕らの体の奥底から湧き上がるヴァイプスを引き出す。まるで猫が媒体と化して僕らの中に出たり入ったりして体が本能の迸りのように激しく、上下の振幅運動を繰り返す。

おそるべしシュレディンガー、享楽の音楽に暫し我を見失う。

 

そして気づいた時には最後の曲、ファーストアルバムの弾けるロカビリーナンバー「She's Boogie」だった。

終わるとバンド全員がベース、ギターを鳴らしっぱなしで放置しながらバックステージに下がる。汗だくになりながらも貪るかのようにまだシュレディンガーを求める。トリではないのだけれど、アンコールのクラップが起こり鳴り止まない。バンドはステージに引き戻され、最後の享楽として「Miss Catwalk」が演奏される。

 

そういえば、今日はロカビリーな曲が続く。北九州にはザ・ルースターズがいるのでこんなセトリだったのだろうか?

対バン形式だから曲数は限られる。早くワンマンがみたい。ワンマンをやるためにはもっとバンドは知名度を上げていくしかない。この音の素晴らしさは圧倒的なのだから。

 

是非、一度デリバリーを、味わってみてほしい。熱い燃え上がりがそこにあるから。

 

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セットリスト

1.R.B.C (黒)

2,Spicy ginger lemonade 新曲

3.Drunker's session 新曲

-mc-

4.Norma Jean

5.Puttanesca!!!

6.She's Boogie

EN:

7.Miss Catwalk

 ※セットリストはKANARIAさんtwitterからご提供いただきました。ありがとうございました。